文化財を維持する檜皮
檜皮葺の建造物は多数あるが、檜皮の供給量は不十分で、葺替えが遅れたり、銅板葺きに変わったりする例が見られる。
これはヒノキの大径木の減少と、檜皮を 採取する人:原皮師(もとかわし)が少なくなっていること、檜皮採取OKの森林所有者が少ないこと、檜皮の流通問題などが原因である。
檜皮の必要量
檜皮とは屋根葺材用に檜から採取した樹皮で、樹齢70~80年以上の立木から採取する。
一度採取すると、樹皮がもとのように生成されるまでに8~10年を 要する。重要文化財に指定されている檜皮葺の建物は約700棟(重要文化財以外も含めると1,650棟)あり、700棟の維持に年間約3,500㎡の葺き 替えが必要である。
檜皮葺建築の例
住吉神社本殿 檜皮葺建物には、清水寺、善光寺本堂、室生寺五重塔、出雲大社本殿、金峯山寺本堂、吉備津神社本殿及び拝殿、厳島神社の諸殿、住吉神社本殿など大きな建物が含まれている。
屋根のこのきれいな曲線は檜皮葺ならではのものである。
檜皮採取の現況
檜皮の採取は原皮師(もとかわし)が行う。
檜皮を用いた屋根の歴史は古く、1,200年以上にわたって、檜皮は供給され続けてきた。近年、檜皮の不足が生 じることが明らかになってきた。
その一つは原皮師の著しい減少である。原皮師の仕事は危険で、きつい仕事であるためである。
150年生という立木の根元から木べらで皮を剥がし、順次上部へ剥がしていく(写真の主は兵庫県の大野氏)
一段目を切り落とした後二段目の皮剥が始まる
1束30kgに束ねて原皮師の山での仕事が終わる
荒皮と黒皮
立木から最初に剥がされた皮は荒皮と呼ばれ、檜皮として品質が悪く収量も少ない。
一度皮を剥いで8~10年くらいたつと、新しい表皮が形成され2度目の剥皮ができる。この皮を黒皮と呼び品質も良く収量も多い。以後8~10年毎に採取できる。
ヒノキ立木の減少
もう一つの問題点は、檜皮を剥ぐためのヒノキ立木の減少である。樹齢70~80年以上の立木はいつ伐採されてもおかしくない収穫対象木である。森林所有者 の収入が減少しているとき、70~80年以上のヒノキはかけがえのない収入源といえる。檜皮葺建造物全てを葺き替えて行くには3,000 haの檜皮採取に適した檜林が必要と試算されている。
民有林と国有林にはどれだけの檜皮採取に適したヒノキ人工林があるのか、ヒノキ人工林面積の多い県を掲げる。
※ 檜皮に関する調査報告書(平成14年3月、日本特用林産振興会)による。写真は中野達夫氏。なお、中野達夫氏のホームページには国宝建築探訪があり多くの檜皮葺を見ることができる。http://members.jcom.home.ne.jp/chutatsu/