和紙原料の生産・流通状況
1. コウゾの生産状況
コウゾの平成16年度(平成15年11月~平成16年10月)の 生産量は、黒皮換算で70tとなっている。手漉和紙生産戸数を見ると、1976年-2004年比ではほぼ半減しているのに対して、1975年-2004年 比では収穫量で8%、栽培面積では11%にまで縮小している。減少傾向には歯止めがかかっておらず、和紙製造者からは原料不足を心配する声も聞こえる。
コウゾの生産量は、高知県本山町・いの町、茨城県大子町、常陸大宮市などが主な産地だが、越前和紙、美濃和紙をはじめ、多くの漉き手から高い評価を得て いるのが、茨城県大子町産の「那須楮」と呼ばれるコウゾである。しかし、那須楮の主な生産者は70歳代と高齢化が進んでおり、毎年1、2軒のペースで減っ ているという。
那須楮は、白皮の状態で出荷されるが、この作業は1~2月にかけて、農閑期の副業として行われているが、「若い農家でやっている人はほとん どいない」状態で、深刻な後継者不足に直面している。他の産地でも高齢化、後継者不足は共通の課題となっており、早急な対策が求められる。
コウゾは山間地の傾斜地に栽培されることが多いため、シカによる食害も、生産意欲減退の要因となっている地域もある。
2. コウゾの流通状況
和紙を取り巻く状況は、戦後の生活様式の変化→障子、襖等の和紙需要の減少→低価格を求める消費志向→コストダウンを実現するための外国産原料の使用→ 国内産生産者価格の下落→価格低下と高齢化による生産意欲の減退、という流れを辿って来た。地域内でコウゾを自給できる産地は減少しており、多くは高知、 茨城、福岡などの主産地に頼っている状況にある。
和紙の生産コスト抑制のために導入された外国産コウゾは、昭和50年(1975)代にタイ産が導入されたのが始まりという。当時、国産の優良品が 2,000円/kgであったが、タイ産は200~300円/kgであったという。しかし、タイ産コウゾは脂分が多く、苛性ソーダで煮ても不純物を取りきれ ないなど、品質面での課題が多かった。
現在では、現地でパルプ状に加工されたものが1,500円/kg程度で購入されており、国内の機械式和紙のほとんどで、このタイ産コウゾが使われている とされる。国内産の最高級品クラスのコウゾの購入価格が、白皮の状態で4,000~4,500円/kgであることを考えると、タイ産コウゾの価格の優位性 がうかがえる。一方、タイ産コウゾも現地での資源が不足しつつあり、一部ベトナムからタイを経由して輸入されているという情報もある。
平成5、6年(1993、94)頃にはフィリピンに、また近年は中国に日本のコウゾの優良苗を持ち込んで栽培が行われているほか、、中国産の中には、 「那須楮」に匹敵する品質を持つものもあるという。また、近年ではパラグアイ産のコウゾも輸入されており、日本産と変わらない品質でありながら、しかも価 格が安いという、
財務省貿易統計では、コウゾの輸入を特定できる項目がないため、正確な輸入国、数量、金額を把握することはできないが、国内で流通しているコウゾのおよそ半数は外国産と見られている。
3. ミツマタの生産状況
ミツマタの平成16年度(平成15年11月~平成16年10月)の生産量は、黒皮換算で571tとなっている。生産量、栽培面積とも、楮と同様減少を続けて来たが、楮よりも高い水準で下げ止まっている。これは、「局納みつまた」の存在が大きい。
「局納みつまた」は、日本銀行券(紙幣、主に1万円札)の原料として独立法人国立印刷局に納めるミツマタ(白皮)で、島根、岡山、高知、徳島、愛媛、山 口の局納生産県6県が生産契約を結んで生産するものである。局納価格は現在、山口を除く5県が毎年輪番で印刷局長と交渉をして決定される。契約数量及び基 準価格を表3に示す。
こうした安定した需要に下支えされていること、また各県に「局納みつまた生産協力会」といった生産者団体が組織されていることもあ り、岡山県などでは県単事業で生産振興が行われてきた。しかし、楮と同様、生産者の高齢化と後継者不足という構造的な問題を抱えており、将来的な生産基盤 への不安は拭えない状況にある。
4. ミツマタの流通状況
2005年(平成17)の局納生産県と印刷局との交渉では、向こ う3~5年の買い上げ見通しが、150~200tと、過去の水準よりも低い数字が印刷局から示されており、加えて、和紙素材などの需要においては、近年、 安価な輸入品との競合が激化しているほか、和紙の需要も低迷しているため、産地によっては収穫されないミツマタが増加し、農地の荒廃を懸念する声も聞こえる。
また、産地によっては加工済みのミツマタの在庫抱えるところもあり、局納みつまたの受注量減により、脆弱な生産基盤に立つ生産者のさらなる生産離れに つながることが懸念される。
5. ガンピの生産・流通状況
ガンピの生産量は2002年(平成14)1.4t、2003年 (平成15)2.26t、2004(平成16)0.96tであった。ガンピは成長が遅いため、一部畦畔栽培が行われている以外は、基本的には野生のものを 採取するのが通常である。従って安定的な確保が難しい上に、採取者が高齢者の場合が多く、価格も不安定になる傾向が強い。
懸念されるのは、第1章で見たように、ガンピ類の多くが、都道府県によっては絶滅危惧種等の指定を受けていることである。ガンピは日当りがよく、やせた 土地を好むものの、栽培が非常に難しいとされてきた。しかし、将来的には自然採取だけでは需要用を賄いきれないだけではなく、自然採取そのものが難しくな る可能性もある。
福井県総合グリーンセンター林業試験部では、2001年に「ガンピの密植多収栽培」とする研究を行い、その報告がインターネット上で公開されている (http://info.pref.fukui.jp/mori/green-c/kenkyujoho/morikinnen.htm「2001年 ガンピの密植多収栽培(特用林産)」をクリック)。ガンピの安定供給に向けて有効と考えられる。
6. トロロアオイの生産・流通状況
トロロアオイの平成16年度(平成15年11月~平成16年10月)の生産量は45t、収穫面積は4haとなっている。9割以上が茨城県で、6%を埼玉県が占める。
トロロアオイは、手漉和紙の粘材以外にも、胃腸薬、咽頭炎などの薬用として、菓子類、めん類等への食品添加物としても利用される。産地が偏っていることから、 栽培に取り組み始める地域もある。
埼玉県小川町は細川紙の産地として知られるが、不耕作地を解消するとともに、途絶えていた製紙材料の自給を目指している。2001年(平成13)に試験 栽培を開始、好結果を受けて2002年には町内の農家に呼びかけ、30軒を超える農家が応じ、2003年には約120aの面積を栽培した。2004年1月 には「小川町トロロアオイ生産組合」(事務局:埼玉中央農協小川支店)を設立、生産の安定を目指して取り組んでいる。
全国手すき和紙連合会の調査によれば、「ねり」にトロロアオイを利用する漉き手は59.3%、「化学ネリ」が12.8%、「ノリウツギ」が8.1%となっており、トロロアオイの需要の高さがうかがえる。