漆(うるし)-文化財を維持する特用林産物

文化財を維持する漆

 

 漆は、「うるわし・うるおす」が語源であるという説もあるように大変美しい塗料です。神秘的な光沢、格調高い色合いは、年月がたつにつれ深みを増していきます。また、天然素材である漆は無公害の塗料で、耐久性、耐薬品性にも優れた素材です。
日本の漆の歴史は古く、石器時代から接着剤として活用され、縄文時代には弓、櫛、器などの漆工品を見ることができます。陶磁器はチャイナ、漆はジャパンと 呼ばれ世界に誇る漆文化を築きあげてきました。国会議事堂は、近代漆芸の祖松田権六氏が熱心に漆塗りにすることを主張しました。国会議事堂御便殿(御休 所)には繊細な漆の美を見ることができます。また、法隆寺の玉虫厨子をはじめ、中尊寺の金色堂、金閣寺などが漆を使った日本の代表的な文化財として伝わっ ています。
参考:松田権六著「うるしの話」岩波文庫
中尊寺金色堂内陣と国会議事堂御便殿扉

ウルシ(植物としての和名)

 ウルシは、日本、中国、インドシナ半島な ど東南アジア地域に分布しており、採取された樹液は、古くからそれぞれの国で活用され、生活文化に根ざした漆工技術を発展させてきました。漆は主に日本、 中国、ベトナム、ミャンマー、台湾、韓国などで採れますが、日本で使われている漆の90%以上は中国などからの輸入に頼っているのが現状です。
 日本の漆は、主成分であるウルシオールの含有率が高く、質の高い漆が産出されます。ウルシは10数年で高さ10メートル、直径10センチ程になり、6月頃黄緑色の花をつけ、秋になると葉は真っ赤に紅葉します。
ウルシの森

漆(樹液)の採取

 ベトナム、中国、韓国、日本等それぞれ方式が違います。日本式は主に次のように採取します。
 10年生くらいの木が採取に適しています。漆液の採取の方法は、まず“ウルシ”の幹に傷をつけ、滲み出てくる樹液をへらで掻き取ります。これを「漆掻 き」(うるしかき)といいます。へらで一滴一滴すくい取って、次の木へ移動し、4日目に戻って次の溝を付け、採取を繰り返します。生育後10年ほどたった 木1本から採取される量は、約250g(茶碗1杯ほど)で漆は大変貴重な塗料です。
 「漆掻き」は、6月中旬から10月初旬まで行います。
夏は木が元気でこの時期に採取した漆は光沢、透明度が最も良く上質の漆とされています。

漆の精製分類

原料生漆 : 漆の樹より採取された樹液のこと。
原料生漆が精製加工されて、(a)生漆、(b)透漆、 (c)黒漆の3つに分れます。
(a)生漆 : 原料生漆より樹の皮などの混雑物を濾し取ったもの。
主に制作に応じて摺漆用、下地用に使われます。
(b)透漆 : 原料生漆を撹拌しながら徐々に水分を除き、乾燥度、肉持ち、光沢、透明度など塗料としての目的に応じた精製加工がなされます。この精製加工をナヤシ、クロメ作業と言います。この透漆に、漆用顔料を練りこみ色漆を作ります。
その質によって主に研磨用、上塗立用、中塗用の種類があります。
(c)黒漆 : ナヤシ、クロメ作業の中で鉄粉を混入させ、化学反応で漆が黒色に変化させたものです。のちに鉄粉を取り除きます。この漆を精製黒漆と称します。主に研磨用、上塗立用、中塗用、箔押用に使われます。
漆の精製

漆の特性

 漆は木地への浸透力があり、器をより固く丈夫にし、塗膜の中で酵素は生き続けます。初め褐色の膜は月日が経つに従って透明度を増し、歳月を重ね美しい色あいに転化します。漆はそういう優れた性質をもった塗料ですので、漆器は昔から多くの人達に愛されてきました。

漆工制作の流れ

 大きく分けると木地・漆塗(下地工程と塗 工程)・加飾とに分業で行なわれます。これを詳細に分けると50~100工程にもなります。絵を表現する方法としては螺鈿(らでん)、金・銀などの金属を 用いる平文(ひょうもん)などを始め多彩な手法がありますが、ここでは3つの手法について述べます
蒔絵(まきえ)
漆器の塗表面に蒔絵筆を使って漆で絵を描き、漆の乾かないうちに、金・銀粉等を蒔き乾かします。
沈金(ちんきん)
漆器の塗表面に主ノミ(刀)で彫った所に漆を埋め込み、乾かないうちに、金箔や金銀粉・色粉などを埋め込んだものです。
沈金の作品
螺鈿(らでん)
あわび貝、ちょう貝などのなどの光沢のある部分を薄く剥いで、文様の形に切りとってはめ込む技法で、虹色の輝きが魅力です。青貝細工ともいいます。

身近にある“漆”

展覧会「漆の美展」が林野庁、文化庁などの協力を得て、漆関係者と作品を一堂に集めて毎年開かれています。
「漆の美展」会場風景
11月13日はうるしの日
 「うるしの製法」「漆器の 製造法」は、文徳天皇(注)の第一皇子惟喬親王が、京都嵐山法輪寺に参篭され、本尊虚空蔵菩薩より御伝授、御教示を受けて完成し、日本国中にひろめたもの といわれており、漆関係者は、親王が参篭された満願の日である11月13日に報恩講(俗に“漆まつり”“焚火祭”)を設けて供養するのがならわしとなって おります。
この由緒ある11月13日を「うるしの日」と定めています。
出典: 「やさしく身につく漆のはなし」(その1~その4) (社)日本漆工協会
(注) : 文徳天皇:850-858年。
摺漆実技講習会
 わが国の代表的文化財とし て伝わる“漆”は、現代では新たな可能性を求めて、様々な活動が行なわれています。一方で、漆に携わる職人の後継者不足も深刻化しています。しかし、石器 時代、縄文時代にさかのぼる漆の文化を見直し、この貴重な文化財を支える“漆”を守り育てる活動が大切です。
 茨城県大子町では摺漆(すりうるし)実技講習会を行っています。講習会は、(社)日本漆工協会専務理事の丸山高志氏他2名を講師として行われています。 (社)日本漆工協会では、日本を代表する漆文化を守り育んだ原材料“漆”を一人でも多くの人に伝え広めていくことをめざし、将来、多くの地にウルシを育 て、原材料とともに漆文化を守ることを願って通信指導も含め実技指導を行っています。
講習会風景
講習会作品
(平成15年度林野庁補助事業「文化財の維持等に必要な特用林産物供給支援事業」の一部として日本特用林産振興会がとりまとめた。協力(社)日本漆工協会)
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