Japan Special Forest Product Promotion Association

桐(きり)-文化財を維持する特用林産物

文化財を維持する桐

桐の原木

桐の材質は軽く、熱伝導率が低く、調湿性に優れることなどから、その特性を活かして貴重な書面などを保存するための箱や雅楽の伎楽面や琴など芸術・文化などに関わる使い方、箪笥や下駄、日用品など我々の生活にも深く浸透し幅広く利用されてきた。

 

女の子が誕生すると住居の周辺に桐を植栽し、結婚が近くなるとその桐を使って花嫁道具をあつらえるという風習もあり全国的に分布しているが「会津桐」 (福島県)、「津南桐」(新潟県)、「秋田桐」(秋田県)、「南部桐」(岩手県)などが主産地として知られている。

桐下駄

しかし、国内の桐生産量は生活形態の変 化やてんぐ巣病の被害などを要因として、昭和34年をピークに減少し続けており、現在ではピーク時の2%程度の生産量となっている。

 

桐に対する国 内需要は増加傾向にあり、不足分については輸入品で賄っている状況であるが、貴重な書画を入れる保存箱、独特の色沢を放つ桐タンス、琴などは品質的に優れている国産の桐が不可欠なものとなっている。

 

桐の分布と種類

桐の原産地はアジア大陸東部とされ、北緯20度から40度、垂直 分布は標高1,500m位までの範囲に分布する。主に日本、中国、台湾、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、オーストラリア等に植林され、その範囲は北 は北緯52度、南は南緯35度に及ぶ。種は10数種が記載されている。桐属の学名はPaulowniaで、わが国においては北海道から九州にかけて植栽さ れている。

現在、日本で栽培されている桐の主な種類は、ニホンギリ、チョウセンギリ、ウスバギリ、ラクダギリなどが挙げられる。

桐材の特性

桐材は、わが国でもっとも軽い材質を持つとともに、比重が小さいため音響変換効率が高く、楽器としての素材に適するなど、さまざまな特性を有する。

(1)調湿性がある

材そのものの水分遮断力の強さに加え、空気中の湿度により膨張・収縮をしながら湿度調整を行うので、衣類の保存や虫除けに適する。

(2)軽い

気乾比重(含水率15%の状態)が0.19~0.40で、国産材の中では極めて軽い。

(3)強い

比重が小さいものの、スギの約3分の2の強度を持ち、下駄に使われるなど、耐摩耗性に優れる。

(4)炎を上げても燃えにくい

着火点が269℃、発火点が425℃で他の樹種と大差はないが、厚板であれば内側を火から保護することが可能である。

(5)断熱性が高く音響性に優れる

多孔質の構造を持つため、熱伝導率(単位:kcal/mh℃)はスギ0.075、ミズナラ0.122、ケヤキ0.123に比べて0.063と低く(新潟 県工業技術総合研究所県央技術支援センター加茂センター調べ)、断熱性が高い。また、音響変換効率が高く、楽器としての振動板としての要件を満たし、音響 性に優れている。

(6)加工がしやすい

材の収縮率が小さいので、加工しやすい。

(7)材質が優美

材質が柔らかく、鉋をかけると光沢が出る。この光沢は「絹糸光沢」と呼ばれる。

桐と文化財の関わり

(1)重要文化財

年代が明らかで現存する桐製品で古いものに、伎楽面がある。伎楽面は日本の伝統演劇のひとつ、伎楽に使われた仮面のことで、世界最古に属する面としてその歴史的意義は高く評価されている。

伎楽面は奈良の法隆寺(現在は東京国立博物館法隆寺宝物館に収蔵)、東大寺、正倉院、春日大社などに飛鳥時代及び奈良時代の遺品が残っている。このうち正 倉院に残る天平勝宝の年号を持つものは、天平勝宝4年(752年)の東大寺大仏開眼法要の時に使われたものである。

(2)国指定の伝統的工芸品

伝統的工芸品とは、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(昭和49年5月25日公布)に基づく一定の要件を満たし、経済産業大臣が指定する工芸品で、全国に207品目ある(平成17年9月現在)。

このうち、桐を使用している伝統的工芸品は以下の10品目で、内訳はタンスが6件、木工2件、人形1件、琴1件となっている。

●桐を使った国指定の伝統的工芸品
名 称
地 域
岩谷堂箪笥 岩手県(江刺市、盛岡市)
江戸木目込人形 埼玉県(岩槻市、春日部市)、東京都(文京区、台東区他)
春日部桐箪笥 埼玉県(さいたま市、春日部市、越谷市、南埼玉郡白岡町)
加茂桐箪笥 新潟県(加茂市)
名古屋桐箪笥 愛知県(名古屋市、春日井市、西春日井郡西枇杷島町)
京指物 京都府(京都市)
大阪泉州桐箪笥 大阪府(岸和田市、堺市、和泉市、東大阪市他)
大阪欄間 大阪府(大阪市、岸和田市、吹田市他)
紀州箪笥 和歌山県(和歌山市)
福山琴 広島県(福山市)
(3)都道府県指定等の伝統工芸品
炉で燃える茶の湯炭

桐タンス

都道府県、あるいは都道府県知事が指定する伝統工芸品がある。それぞれ指定要件は異なるが、おおむね、 製造工程の主要部分が手工業的であること、伝統的な技術または技法により製造されること、 伝統的に使用されてきた原材料により製造されること、などを要件としている。

47都道府県について調査を行った結果、桐を原材料としている工芸品は25都 府県、41品目が認められた。これらの伝統工芸品等を分野別に分類すると以下の通りであった。

下駄………………………14
タンス……………………10
人形・玩具……………… 5
工芸品…………………… 4
獅子頭…………………… 3
面………………………… 3
琴………………………… 2

炉で燃える茶の湯炭

下駄、箪笥が圧倒的に多く、これは桐の軽さ、調湿性、防虫性といった特性を活かしたものといえる。他の品目を見ても、獅子頭、面、琴など、いずれも桐材がわが国固有の文化と密接に関わっていることがうかがえる。

●桐を使った国指定の伝統的工芸品
都府県名
工芸品名
地域名
青森県
津軽桐下駄 弘前市/青森県伝統工芸品
南部総桐箪笥 三戸町/青森県伝統工芸品
岩手県
南部桐まくら 二戸市
宮城県
仙台箪笥 仙台市/みやぎ伝統的工芸品
山形県
山形桐紙 山形市/山形県伝統的工芸品
福島県
会津桐下駄 会津・南会津地方/福島県指定伝統的工芸品
総桐箪笥 会津・南会津地方/福島県指定伝統的工芸品
茨城県
結城地方の桐下駄 結城市、筑西市、常総市、つくばみらい市/茨城県郷土工芸品
結城桐箪笥 結城市/茨城県郷土工芸品
栃木県
日光下駄 日光市、今市市/栃木県伝統工芸品
栃木の桐下駄 栃木市/栃木県伝統工芸品
群馬県
沼田桐下駄 沼田市/群馬県ふるさと伝統工芸品
三国桐下駄 新治村/群馬県ふるさと伝統工芸品
月夜野桐箪笥 みなかみ町/群馬県ふるさと伝統工芸品
埼玉県
所沢人形(押絵羽子板) 所沢市/埼玉県伝統的手工芸品
岩槻人形(雛人形) 岩槻市/埼玉県伝統的手工芸品
千葉県
上総獅子頭 成東町/千葉県指定伝統的工芸品
東京都
東京桐箪笥 東京都内/東京都知事指定伝統工芸品
江戸押絵羽子板 東京都内/東京都知事指定伝統工芸品
東京琴 東京都内/東京都知事指定伝統工芸品
石川県
桐工芸 金沢市/石川県指定伝統的工芸品
加賀獅子頭 白山市/未指定伝統的工芸品
金沢市/未指定伝統的工芸品
福井県
武生桐箪笥 越前市/福井県指定郷土工芸品
長野県
栄村の桐下駄 栄村/長野県知事指定伝統的工芸品
静岡県
藤枝桐箪笥 藤枝市/静岡県郷土工芸品
駿河塗下駄 静岡市/静岡県郷土工芸品
三重県
桑名箪笥 桑名市/三重県指定伝統工芸品
奈良県
奈良市
鳥取県
桐下駄 湯梨浜町/鳥取県郷土民芸品
島根県
出雲獅子頭 出雲市/島根県ふるさと伝統工芸品
香川県
志度桐下駄 さぬき市志度/香川県伝統的工芸品
桐箱 琴平町/香川県伝統的工芸品
愛媛県
桐下駄 内子町五十崎/愛媛県伝統的特産品
福岡県
広川下駄 広川町/福岡県知事指定特産工芸品
大川総桐タンス 大川市ほか/福岡県知事指定特産工芸品
佐賀県
浮立面 鹿島市/佐賀県伝統的地場産品
熊本県
きじ馬・花手箱・羽子板 人吉市ほか/熊本県伝統的工芸品
宮崎県
高千穂神楽面 高千穂町/宮崎県伝統的工芸品

桐の生産状況

茶の湯炭用のクヌギ原木

福島県三島町の植栽状況

国内の桐生産量の統計は昭和30年(1955)から存在する。こ れを見ると、国内生産量のピークは昭和34年(1959)の86,806・で、以後、徐々に国内生産量は減少しているものの、昭和39年(1964)から 昭和46年(1971)までは3万・と安定した数量を維持している。輸入量が増加し始めるのは翌1972年(昭和47)からで、前年の2倍以上の 31,938・が輸入されている。

昭和45年(1970)~50年(1975)にかけて、桐の価格は上昇する。その背景には、昭和35年(1965)の所得倍増計画に端を発する高度経済 成長による国民生活の向上、それに伴う箪笥などの耐久消費財の購買意欲の高まりがあったと推測される。さらに、1972年は戦後のベビーブーム、昭和 22~24年(1947~1949)に生まれた、いわゆる団塊の世代が適齢期を迎えた時期である。

ナラの茶の湯炭をやく炭窯(岩手県)

新潟県津南町の植栽状況

徐々に減少しつつあった国内の桐材生産量だけでは、これ ら婚礼に伴う箪笥への需要を満たすことはできず、昭和47年(1972)頃から中国からの輸入が本格化し、さらに昭和50年(1975)頃からはアメリカ 産桐原木の輸入が始まり、国内産の桐の価格が下落していく。以後、低価格、安定した供給量を誇る輸入桐材が国内産の桐材の市場を席巻し、現在に至ってい る。
国内の主要な桐産地としては、会津桐(福島県)、津南桐(新潟県)、秋田桐(秋田県)、南部桐(岩手県)が知られている。

桐材生産・流通の課題

1 生産における課題
(1)苗木供給体制の整備

優良な桐材を生産・確保するためには、優良な苗木の確保が桐栽培上極めて重要なポイントとなる。桐の国内生産量は減少が続いており、将来的には桐材資源 の不足も危惧される。主要産地においても優良桐苗の安定的な確保・育成は課題となっており、供給体制の整備が求められる。

(2)病虫害対策

販売価格同様に生産意欲減退の要因となっているのが病害虫による被害である。どのような病害があり、それらを防ぐためにはどのような手段があるのか等の 情報を、生産者に的確に伝えることが求められる。

(3)栽培技術の継承

桐栽培は、細かな栽培管理が必要であり、それぞれ地域の気候、風土に適した栽培管理方法が醸成されてきた。現在、多くの生産者は高齢化しており、後継者 も少ない。このため、伝統的に培われてきた地域の栽培技術に関する知識を次の世代に伝えるための仕組みづくりが求められる。

(4)産地における生産者組織の強化及び再編成

以上、(1)~(3)を効果的に進めるための有効的な手段の一つとして、産地における生産者の組織化を進めることが考えられる。海外からの安価な輸入材 によって生産者価格が下落するまでは、各地に桐栽培の生産者団体が存在し、栽培技術情報交換等、会員の相互交流が行われていた。しかし、現在は一部の地域 を除いてはそうした活動が行われている例は極めて少ないのが現状である。桐栽培の振興のためにも、既存の生産者組織の強化、あるいは再編成が求められる。

2 流通における課題
(1)国産材と輸入材の差別化

国産材が安価な輸入桐材と対抗するためには、国産材のメリットを消費者に理解してもらう必要がある。そのためには、独特の色沢や木目の持つ国産桐の価値を消費者に広く訴えかけることが求められる。

桐の特性について第1章の2.で触れているが、これらの特性が輸入材と比較してどう異なるかの比較を行った上で、その優位性を消費者に訴えていくことも求められる。

(2)地域ブランド確立の検討

第2章で桐を利用した伝統工芸品等について記したが、ここで取り上げたもの以外にも民間の家具メーカー等が桐を扱っており、至るところで「会津桐使用」 がうたわれている。しかし、それらのうちのどの部分に会津桐が使われているのか、一般消費者が判断することは不可能に近い。このため、国内産の桐である 「国産桐」の表示、あるいは「会津桐」「秋田桐」「津南桐」など、商標登録制度を活用した地域ブランドの確立等の検討が求められるところである。

(3)新たな需要の創設

伝統的工芸品などに利用できる良材は比較的高値で取引されるが、それ以外の材の価格が低く、生産者にとって再生産価格を確保するのがむずかしい状況にあ る。従って、そうした良材以外の部分の用途の開発が求められる。

現在有望と考えられるのは住宅用建材としての利用である。桐の建材への利用は古くは島根県松江市の松山城天守閣の階段があり、また、天井、板戸、障子、 欄間、襖、そして冷たさを感じさせないということから、フローリング材にも利用されている。

また、福島県三島町では、三島産の桐材を活用して民間企業と協力して桐の不燃材を開発、全国で初めて国土交通大臣より不燃材の認定を受けている。今後は 玄関戸及びサッシ等の高付加価値の建具として製品化し、首都圏、都市部で販売するとして、東北経済産業局の「新連携事業」の認定を受けている。

(4)桐材業者の高齢化

現在、桐の栽培場所、樹齢等を最も把握しているのは、各地域の桐材業者である。しかし、桐材価格の低迷により、専門業者の数は減少の一途をたどってお り、会津地域においてもかつては480軒あった桐材業者が現在では25軒となり、うち専業で営んでいるのはその約半数であるという。生産者同様、桐材業者 も高齢化、後継者難という課題を抱えており、桐材の価値を評価し、生産地から加工業者までの橋渡しとしての役割を担っていく上での不安要素となっている。
(平成18年度林野庁補助事業「文化財の維持等に必要な特用林産物供給支援事業」の一部として日本特用林産振興会がとりまとめた。

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